惠藤憲二が紹介する選考基準
こんにちは。
恵藤憲二です。
今回は、芥川賞の選考基準を惠藤憲二が紹介します。
芥川賞は対象となる作家を「無名あるいは新人作家」としております。
特に初期には「その作家が新人と言えるかどうか」が選考委員の間でしばしば議論となった。
戦中から戦後にかけて芥川賞が4年間中断していた時期に野間宏、中村真一郎、椎名麟三、梅崎春生、武田泰淳 、三島由紀夫ら「戦後派」と呼ばれる作家たちが登場して注目を浴びた。
1949年の芥川賞復活後、彼らは新人ではないと見なされて候補に挙がることもなかった。
なおこの内、梅崎春生は直木賞を受賞している。
また島木健作や田宮虎彦、後述する井上光晴のように候補に挙がっても「無名とはいえない」という理由で選考からはずされることもしばしば起こった。
他方、第5回(1937年上半期)に受賞した尾崎一雄は受賞時すでに新人とは言えないキャリアを持っていたが、「一般的には埋もれている」(瀧井孝作)と見なされて受賞に至っている。
第38回(1957年下半期)に開高健と競って僅差で落選した大江健三郎はその後の半年間にも次々と話題作を発表しました。
続く第39回(1958年上半期)でも候補となったが作品のレベルでは群を抜いていたにも関わらず新人といえるかどうかが議論の的となった。
大江の受賞が決定した時には、選考委員の佐藤春夫は「芥川賞は今日以後新人の登竜門ではなく、新進の地位を安定させる底荷のような賞と合点した」と皮肉を述べている。
現在ではデビューして数年経ち、他の文学賞を複数受賞しているような作家が芥川賞を受賞することも珍しくなくなっている。
近年ではデビューして10年たち伊藤整文学賞、毎日出版文化賞と権威ある賞を受けていた阿部和重が作家的地位も確立していた2004年下半期に芥川賞を受賞し「複雑な心境。新人に与えられる賞なので、手放しで喜んでいられない」とコメントした。
今回はここまで。
以上。